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ボックスカーアベレージングの原理

Principles of Boxcar Averaging

はじめに

低いデューティ比のパルス信号を高精度に取り込み、リアルタイムにフィードバックすることは、光学・フォトニクス、ナノテクノロジー・材料科学、量子技術、走査型プローブ顕微鏡、センシングなど、多くのアプリケーションに必要なテクニックです。このような信号では、各周期の一部にしか必要な情報が含まれておらず、その短い時間以外にはノイズしか存在しません。ボックスカーアベレージャは、低いデューティ比の信号を扱う際に、最小限の測定時間で高い信号対雑音比(SNR)を実現する魅力的なツールです。ボックスカーアベレージャは、設定した時間的な周期ウィンドウからの信号をキャプチャし、そのウィンドウの外側のすべての信号成分を排除します。

Zurich InstrumentsのUHFLI及びUHF-BOXボックスカーアベレージャオプションを使うと、デジタイザやオシロスコープとは異なり、測定結果はデジタルデータや、またユーザーが設定したオフセットやスケーリングファクターを掛けたアナログ信号としてリアルタイムに利用できます。さらに、内蔵のPIDコントローラーで測定結果を処理してフィードバックループを構築したり、ロックインアンプユニットでボックスカーの出力を復調することができます。

このホワイトペーパーでは、デジタル・ボックスカーアベレージャの動作原理を説明し、関連する測定パラメータを明らかにするとともに、最新の技術を紹介し、周期的な信号を最適に測定する方法選択についてのガイドラインを紹介します。

基本動作原理

典型的な周期的パルス信号測定では、図1(a)に示すように、情報は持続時間 \(T_{\rm{p}}\) の短いパルスに含まれ、個々のパルスの間には長い待ち時間があります。信号はデューティー比 \(d = T_{\rm{p}} / T_{\rm{rep}}\) で表されます。ここでパルスの繰り返し周期 \(T_{\rm{rep}}= 1/f_{\rm{rep}}\)は、\(f_{\rm{rep}} \) の逆数です。デューティ比が低い信号を連続して取り込むと、ノイズ成分しか含まれないパルス間の時間が大きく寄与するため、SNRが悪化します。

ボックスカーアベレージャを使うと、ノイズ成分しかないパルス間の時間を無視して、パルスのタイミングのみ信号を取得することが可能になります。これは、図1(b)の様に、測定信号と矩形のパルス列であるボックスカー関数を掛け合わせることに相当します。ボックスカー関数の周期 \(T_{\rm{rep}}\) とボックスカー・ウィンドウ幅 \(T_{\rm{box}}\)、測定信号に対するタイミングを合わせることで、図1(c)に示すように、信号パルス間のノイズを除去することができます。最後に、図1(d)に示すように、信号を \(T_{\rm{box}}\) の周期にわたって積分し、積分された信号を \(N\) 周期にわたってアベレージングします。

Basic working principle of boxcar averaging

図1:ボックスカーアベレージャの動作原理。(a) パルスの実験で得られる典型的な測定信号。\(T_{\rm{p}}\) はパルス幅、\(T_{\rm{rep}}\) は繰り返し周期。(b) パルス幅 \(T_{\rm{box}}\) のボックスカー関数(矩形パルス列)。(c) 測定信号をボックスカー関数で乗算した結果の信号。ボックスカー・ウィンドウの前後にあるノイズ部分は除去されます。(d) 各ボックスカー・ウィンドウの間、信号を積分し、その結果を \(N\) 周期にわたってアベレージングします。

ボックスカーのパラメータ

ボックスカー・ウィンドウ

ボックスカーアベレージャの繰り返し周期は、測定信号の繰り返し周期によって決まり、ボックスカー・ウィンドウとアベレージングを調整することでSNRを最適化することができます。

ボックスカー・ウィンドウの幅 \(T_{\rm{box}}\) と測定信号パルスに対するそのタイミングは、SNRを最適化する重要なパラメータです。ホワイトノイズを想定して、既知のパルス形状の繰り返し周期の信号への、理想的なボックスカー・ウィンドウの幅を計算することができます。図2(a)は、\( p(t) = A \exp( -0.5 t^2 / \sigma^2)\)、(ただし標準偏差 \(\sigma = 0.04\,T_{\rm{rep}}\) のパルス幅)で表されるガウシアンパルスの周期信号の一周期を示しています。ここで、信号を幅 \(T_{\rm{box}}\) のボックスカー・ウィンドウで積分したときに取り込まれる信号 \(s_{\rm{box}}\) を計算します。ガウスパルスを中心とした長方形のボックスカー・ウィンドウの場合、\(s_{\rm{box}}\) は次のように与えられます。

\[s_{\rm{box}}=\int_{-T_{\rm{box}}/2}^{T_{\rm{box}}/2}p(t)dt\]

(1)

ここで、\(s_{\rm{box}}\) は、\(T_{\rm{box}}\) を大きくすると広くなり、最終的に全パルスが取り込まれます。しかし一方、捕捉されるノイズも \(T_{\rm{box}}\) と共に増加します。ホワイトノイズの場合、捕捉されるノイズ \(n_{\rm{box}}\) はボックスカーのウィンドウ幅の平方根に比例して増加し、\(n_{\rm{box}} \propto \sqrt{T_{\rm{box}}}\) となります。

図2(b)は、\(s_{\rm{box}}\)、\(n_{\rm{box}}\) および \(T_{\rm{box}}\) の関数で表した \(\rm{SNR} = s_{\rm{box}}/ n_{\rm{box}}\) の例を示しています。ここでは、全周期を取り込んだ場合、すなわち \(T_{\rm{box}} = T_{\rm{rep}}\) の場合に \(\rm{SNR} = 0.6\) となるようにノイズ量を想定してしています。\(s_{\rm{box}}\) は、ボックスカーのウィンドウ幅とともに増加し、パルス幅と等しくなると、最大に近づきます。信号が完全に捕捉された状態では、ボックスカー・ウィンドウの外側のノイズが除去されるため、\(\mathrm{SNR}=\sqrt{T_{\rm{rep}} / T_{\rm{box}}}\) となります。SNRが最大となるのは、パルスを完全に捕捉しない \(T_{\rm{box}}\) で得られる場合が多く、この例では、図2(a)に示すように、\(T_{\rm{box}} \fallingdotseq 0.11T_{\rm{rep}} \fallingdotseq 2.8\sigma \) に相当する84%の信号を捕捉したときにSNRが最大となりました。

実際の測定では、大きなボックスカー・ウィンドウで開始し、\(\rm{SNR}\) がピークに達するまでウィンドウの幅を狭めることでSNRを最適化する手法が広く用いられます。

Boxcar window optimization

図2:ボックスカー・ウィンドウの最適化。(a) 標準偏差 \( \sigma = 0.04\,T_{\rm{rep}}\) となるパルス幅のガウシアンパルスと、理想的な幅のボックスカー・ウィンドウの例。(b) ガウスパルスの信号、雑音、SNRの関係をボックスカーの正規化したウィンドウ幅 \(T_{\rm{box}}/T_{\rm{rep}} \) の関数として表したもの。\(\rm{SNR} = 0.6\) の条件下では、理想的なボックスカー・ウィンドウの幅 \(T_{\rm{box}} \fallingdotseq 0.11T_{\rm{rep}}\ \fallingdotseq 2.8\sigma\) となり、得られる \(\rm{SNR} \fallingdotseq  1.5\) となりました。

アベレージング周期

パルス間のノイズ成分を除去した後、信号はボックスカー・ウィンドウで指定されたタイミングの間積分され、移動平均フィルタにより複数の周期にわたってアベレージングされます。アベレージング時間 \(T_{\rm{avg}}\) を定義して使用する代わりに、アベレージングする周期の数 \(N\;(= T_{\rm{avg}}/T_{\rm{rep}})\) を用いると理解がしやすくなります。ホワイトノイズのノイズと理想的なボックスカー・ウィンドウを仮定して\(\rm{SNR}\) を計算すると、捕捉される信号は周期 \(N\) に比例して増加し、一方、ノイズは捕捉された周期 \(N\) の二乗和平方根に比例して増加します。したがって、\(N\) 個のボックスカー周期の場合、結果として得られる \(\rm{SNR}\) は次のようになります。

\[{\rm{SNR}} = \frac{\sum_{i=1}^{N}s_{\rm{box}}}{\sqrt{\sum_{i=1}^{N}{n^2_{\rm{box}}}}}=\frac{Ns_{\rm{box}}}{\sqrt{N{n^2_{\rm{box}}}}}=\frac{s_{\rm{box}}}{n_{\rm{box}}}\sqrt{N}\]

(2)

ここで、信号 \(s_{\rm{box}}\) とノイズ \(n_{\rm{box}}\) はすべての周期で同じであると仮定しています。

周波数応答

ボックスカーアベレージャの出力 \(Out_{\rm{box}}\) は、プランシュレルの定理[1]を用いて時間領域と周波数領域で計算することができます。

\[Out_{\rm{box}}=\int_{-NT_{\rm{rep}/2}}^{NT_{\rm{rep}/2}}B(t)S(t)dt=\int_{-\infty}^{\infty}\hat{B}_N(\omega)\hat{S}(\omega)d\omega\]
(3)

ここで、\(B(t)\) と \(S(t)\) はそれぞれ時間領域のボックスカー関数と測定信号であり、\(\hat{B}(\omega)\) と \(\hat{S}(\omega)\) はそれらのフーリエ変換です。ここでアベレージング周期が有限であることを考慮して、\(N\) 個のパルスを取り込むボックスカー関数のフーリエ変換として、\(\hat{B}_{N}(\omega)\) を用いました。ボックスカーアベレージの周波数応答を理解するために、\(B(t)\), \(\hat{B}(\omega)\) と \(\hat{B}_{N}(\omega)\) についてもう少し詳しく説明します。

ここではまず、無限のアベレージング周期を考え、周期関数はサインとコサインの和で表現できるというフーリエの定理を利用しています。ボックスカー関数 \(B(t)\) は、次のように表されます。

\[B(t)=a_0 + \sum_{m=1}^{\infty}a_m \cos(m\omega_0t)\]

(4)

ここで、\(B(t)\) は偶関数であるため、サイン項は\(0\)になります。

基本周波数 \(\omega_0 = 2\pi\, f_{\rm{rep}} \) は、パルスの繰り返し周期によって決まります。係数 \(a_0 = d = T_{\rm{box}}/T_{\rm{rep}}\) はデューティ比に相当し、係数 \(a_m\) は次式で与えられます。

\[a_m=\frac{2}{m\,\pi}\sin\left(\frac{m\,\pi\, T_{\rm{Box}}}{T_{\rm{rep}}}\right).\]
(5)

したがって、ボックスカー関数のフーリエ変換は、基本周波数 \(f_{\rm{rep}}\) の各次の高調波を係数 \(a_m\) で重み付けされたものに対応します。式3は、ボックスカーアベレージャが整数次の高調波の周波数成分のみ捕捉し、他の周波数成分を効率的に除去できることを示しています。

また、アベレージング周期が長くなると、\(\hat{B}_N(\omega)\)は\(\hat{B}(\omega)\) とほぼ等しくなります。図3(a)は、 \(N=200\) の場合の \(\hat{B}_N(\omega)\) の例で、高調波の周波数に急峻なピークが見られます。フーリエ変換した\(a_m\)の重み付けのエンベロープは、\(f/f_{\rm{rep}}=1/d\) でゼロとなる正規化sinc関数 \({\mathrm{sinc}} (x) = \sin(\pi x)/(\pi x)\) となります。次にデューティ比の効果を調べるために、\(d = 0.05\)、\(d= 0.1\)、\(d= 0.2\) の3つの異なるデューティ比の値について \(a_m\) を計算したものを図3(b)に示します。デューティ比が低いほど、低い周波数のピークが下がり、相対的に高次の高調波の寄与が大きくなることがわかります。

有限回のアベレージング周期において、\(\hat{B}_N(\omega)\) の各ピークは、\(f_{\rm{rep}}/N\) の周波数周期でゼロとなるsinc関数になります。図3(c)は、周期 \(N=5\) の \(\hat{B}_N(\omega)\) の例です。高調波で信号が捉えられていますが、各ピークのsinc関数のサイドローブにより、ノイズ成分が測定信号に混入します。そのため、アベレージング周期の数を調整することは、良いSNRを得るために非常に重要です。アベレージングを行わない場合(すなわち\(N=1\)の場合)、sinc関数の和は、図3(b)で表したエンベロープのsinc関数になります。

測定帯域 \(f_{\rm{3 dB}}\) は、信号が3dB減衰(振幅の約0.71倍)する周波数と定義されます。ボックスカーアベレージャーの場合は、周波数ゼロを中心としたsinc関数の振幅の減少量から \(f_{\rm{3 dB}}\) を算出することができます。

\[{\mathrm{sinc}} \left( \frac{N}{f_{\rm{rep}}} f_{\rm{3dB}}\right)= \sqrt{10^{-3/10}} \fallingdotseq 0.71,\]

(6)

これにより

\[f_{\rm{3dB}}= {c\,\frac{f_{\rm{rep}}}{N}}\]

(7)

となり、\(c = \rm{sinc}^{-1}(\sqrt{10^{-3/10}}) \fallingdotseq 0.44\) となります。測定帯域幅は、アベレージング周期 \(N\) と繰り返し周波数 \(f_{\rm{rep}}\) により線形に変化します。

Spectral and temporal response of a boxcar averager

図3:周波数および時間的応答。(a) デューティ比が\(d=0.1\), \(N=200\) 周期の信号のフーリエ変換。(b) フーリエ変換のエンベロープ関数。\(d=0.05\), \(d=0.1\), \(d=0.2\) の3種類のデューティ比で、係数 \(a_m\) を周波数の関数とした場合。(c) デューティ比が \(d = 0.1\) で、周期 \(N = 5\) の信号のフーリエ変換。(d) 時間応答。\(N\) 周期の移動平均により、ボックスカーアベレージャの出力は時間的に線形に変化し、\(N\) 周期後に新しい値に到達します。

時間応答

ボックスカーアベレージャの時間応答は、\(N\) 周期の平均値を計算することによって求められます。移動平均フィルタの場合、図3(d)に示すように、時間応答は \(N\) で決まる傾きの線形特性となります。信号が変化した後、\(N\) 周期後に100%に収束します。イメージングのアプリケーションでは、ピクセルあたりの測定時間を \(NT_{\rm{rep}}\) 以上にすることで、ピクセル間のクロストークの影響をなくすことができます。デジタル的な方法では、\(N\)周期にわたる移動平均の計算中に中間的な結果が出せるので、信号を継続的にモニタ―することができます。

ボックスカーのパラメータのまとめ

  • ボックスカーのウィンドウ:ウィンドウの幅\(T_{\rm{box}}\)とそのタイミングによって、取り込まれる信号とノイズが決まります。ホワイトノイズを仮定すると、SNRは \(\sqrt{T_{\rm{rep}}/T_{\rm{box}}}\) で近似的に向上します。多くの場合SNRは、測定信号パルスの全幅よりウィンドウの幅が狭い場合に最良となります。
  • アベレージング周期 \(N\) :積分された信号は、移動平均フィルターを用いてN周期にわたってアベレージングされます。ホワイトノイズを仮定すると、SNRは \(\sqrt{N}\) に比例して向上します。
  • 周波数応答:ボックスカー・ウィンドウ \(T_{\rm{box}}\) を狭くすると、高次の高調波成分の寄与が大きくなります。アベレージング周期の数 \(N\) は、高調波におけるsinc関数のピークの幅を決定します。
  • 測定帯域 \(f_{\rm{3dB}}\):\(f_{\rm{rep}}/N\)に比例します。
  • 時間応答:ボックスカーアベレージャの応答は、時間に対して線形なアベレージング周期 \(N\) と繰り返し周期 \(f_{\rm{rep}}\) によって決定される傾きを持ちます。

最新技術

最初のアナログボックスカーアベレージャは、1961年にBlumeと共同研究者による原理に基づき作られました[2]。最近では、高分解能、高線形のアナログ・デジタル変換器の開発、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)の性能向上により、すべての計算を高速なデジタル信号処理によって数値的に行うデジタル方式が実現可能になりました。図4(a)に示したZurich Instruments社のUHFLI及びUHF-BOX ボックスカーアベレージャは、現在市販されている唯一のデジタルボックスカーアベレージャです。繰り返し周波数450MHzまでデッドタイムフリーで動作し、周期波形アナライザ (periodic waveform analyzer, PWA)やベースライン・サプレッションなどの追加機能を備えています。すべての機器の設定と測定パラメータの制御と読み出しは、図4(b)で示したLabOne®ユーザー・インターフェース、またはアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)から行えます。

 

表1:アナログ方式とデジタル方式UHF-BOXボックスカーアベレージャの比較
特徴 アナログ UHF-BOX

トリガジッタの影響

受けない 受ける

長方形のボックスカー・ウィンドウ

不可能 可能

中間値での出力/確認

不可能 可能

非周期的な信号の測定

可能 不可能

グラフィカルなユーザーインターフェース

なし あり

周期波形アナライザ(PWA)

なし あり

フレキシブルなリファレンス・ウィンドウ

なし あり

最大アベレージング周期

10000 1 M

デッドタイムフリーの最大繰返し周波数

< 50 kHz 450 MHz
The UHF-BOX Boxcar Averager and the LabOne user interface

図4:Zurich Instruments社ののUHFLIロックインアンプ及びUHF-BOXボックスカーアベレージャオプション。(a) 600MHzの帯域幅を持つ2つの信号入力チャンネルと2つの信号出力チャンネルに加え、複数のトリガチャンネルとAUXチャンネル、32ビットDIOポートを備えています。(b) LabOne®のユーザーインターフェースのスクリーンショット。PWAを使ってボックスカー・ウィンドウとリファレンス・ウィンドウを設定することができます。プロッターツールのMathタブでは、10秒間のボックスカーの結果が表示され、表示された結果から、平均値、標準偏差、SNRなどの必要な情報を計算することができます。

アナログ方式とデジタル方式の違い

アナログ方式のボックスカーアベレージャは、信号が取得され積分される時間タイミングが、トリガで制御されるゲートウィンドウに基づいているため、ゲート付き積分器とも呼ばれます。個々のトリガパルスでボックスカー・ウィンドウを制御することにより、周期的な測定信号パルスと非周期的な測定信号パルスの両方に対応できるというメリットがあります。しかし、積分器のクリアに必要な時間に起因するトリガの再スタート時間は、数ミリ秒に及ぶことがあり、高速のパルスシーケンスの取得には大きな制限となります。さらに、アナログボックスカーアベレージャのボックスカー・ウィンドウは、ゲートの立ち上がり時間のために理想的な長方形とならず、またトリガ信号に依存しているためにジッタが発生します。

デジタル方式のUHF-BOX ボックスカーアベレージャでは、測定信号をアナログ/デジタル変換器でデジタル化し、ボックスカー関数の乗算とアベレージングをデジタル処理で行います。このプロセスにより、デッドタイムがなく、ほぼ理想的な長方形のボックスカー・ウィンドウを実現しています。立ち上がり時間は入力帯域幅とサンプリング周波数にのみ依存しており、信号を失うことなく非常に高い繰り返し周波数での動作が可能になります。

UHF-BOX ボックスカーアベレージャの簡略化したブロック図を図5(a)に示します。信号は内部の発振器に位相同期しているため、ボックスカー・ウィンドウは位相で定義されます。周期的な信号の位相同期データ処理は、Zurich Instrumentsが特許を取得しており[3]、トリガのジッタやドリフトの影響を受けにくい特徴があります。ボックスカーアベレージャの出力は、内部で他のツールに送ることもできます。例えば、信号のデューティ比が追加の変調を受けている場合はロックインアンプユニットに、また、フィードバックループを作成するために内部のPIDコントローラに送ることもできます。移動平均をデジタルで計算することにより、ボックスカーアベレージャ出力の中間的な結果を取得し、高速なフィードバックループのために使用することができます。

表1に、アナログ方式のボックスカーアベレージャとデジタル方式のUHF-BOXボックスカーアベレージャの比較をまとめました。

ハードウェア要件

ボックスカーアベレージャは、基本周波数と多くの高次の高調波から情報を取得します。高調波を測定するには、少なくとも基本周波数の数倍の入力帯域幅と、さらに高いサンプリングレートが必要となります。

周期波形アナライザ (PWA)

信号がノイズに埋もれている場合、ボックスカー・ウィンドウの幅とタイミングを正確に設定することは困難です。UHF-BOX ボックスカーアベレージャでは、測定信号の単一周期を表示するPWAツールが用意されており、容易に設定が行えるようになっています。またSNRが悪い場合は、測定信号を多くの周期でアベレージングすることができます。図5(b)では、基準となる発振器の位相を基準にしてボックスカー・ウィンドウを定義しています。全周期を表示するとパルスが解像できない場合、PWAでは拡大して周期の一部だけを表示することで分解能を上げることもできます。これは信号入力を基準周波数の高調波で参照させることにより実現しています。PWAでは、測定信号の高速フーリエ変換により、基本周波数に対する高調波の重み付けを表示・分析することもできます。

ベースライン・サプレッションと算術演算

UHF-BOX ボックスカーアベレージャでは、ベースライン・サプレッション機能があり、パルス間にリファレンス・ウィンドウを設けることで、DC成分や可変オフセットによるエラーを取り除くことができます。また、ケーブル内の反射など、基本周波数の対象信号に対して位相がずれる原因となる信号を除去することもできます。リファレンス・ウィンドウのタイミングは、図5(b)のように、PWAを使って選択することができます。

リファレンス・ウィンドウは、ポンプによる透過率変化を伴うポンププローブ分光法のように、必要な情報が1つおきのパルスにしか存在しないような実験に最適です。時間領域に2つのフィルターウィンドウを設定することで、個々の信号成分をうまく分離することができます。

UHF-BOX ボックスカーアベレージャは、ベースライン・サプレッション機能を持つ2つの独立したボックスカーユニットと、内蔵の演算ユニットを備えています。演算ユニットでは、任意のスケーリングファクターをかけて、二つの並列したボックスカー測定の結果を演算して、リアルタイムに結果を出力します。例えば、二つのボックスカーで測定結果を正規化して、ショットごとの比を測定することもできます。

波形の復元

アプリケーションによっては、積分された信号だけでなく、パルスの形状も重要な意味を持ちます。周期的な信号の波形を復元するツールはいくつかあります。

  • オシロスコープやデジタイザーカードとアベレージング処理
  • 周期波形アナライザ
  • ボックスカーアベレージャにより、ウィンドウのタイミングを掃引する測定

測定信号のSNRが比較的高く、信頼できるトリガソースがある場合は、一般的にオシロスコープやデジタイザーカードが使われます。デジタル化された測定信号は、トリガ信号を使って複数の周期にわたってアベレージングすることができます。また、すべての生データを保存して後処理することもできます。測定の性能は、サンプリングレート、電圧の分解能、メモリ容量など、機器の仕様によりますが、SNRが低い信号の場合、多くの周期にわたってアベレージングする必要があり、トリガのジッタやトリガのドリフトにより結果が悪化することがあります。

SNRが低い周期的な測定信号では、ボックスカーアベレージャで波形を再構成することができます。UHF-BOX ボックスカーアベレージャは、可変ゲインレンジの入力アンプにより、高感度と低ノイズを実現しています。また、信号が内部発振器にロックされているため、トリガのジッタやドリフトの影響を受けません。上記のUHF-BOX ボックスカーアベレージャのPWAツールは、時間分解能よりも速度を重視する場合、例えばボックスカー・ウィンドウを選択場合に有用です。ただし、時間分解能は1周期あたり1024ポイントに固定されているため、幅の広いパルスを測定する場合には制限となってしまいます。

更にSNRの低い信号に対しては、狭いボックスカー・ウィンドウを測定信号に対するタイミングを掃引することで測定することもできます。この目的のために、図5(c)に示すように、ボックスカーのウィンドウ幅は、パルスの幅よりもはるかに狭く設定できます。またこの方法では、ボックスカー・ウィンドウの外側にあるノイズ成分を除去することで、測定のSNRを向上させることができます。UHF-BOX ボックスカーアベレージャでは、内蔵されているスイパーツールを使って、ボックスカー・ウィンドウの掃引を簡単に行うことができます。この方法の欠点は、比較的時間がかかることと、周期毎のデータの大部分が廃棄されるため、信号強度のドリフトに敏感であることです。

波形の復元のためのさまざまなツールの特性と相対的な性能を表2にまとめました。

Features of the Zurich Instruments UHF-BOX Boxcar Averager

図5:Zurich Instruments UHF-BOX ボックスカーアベレージャ―の特徴。(a) 簡略化したブロック図。信号は内部の発振器に位相ロックされており、ボックスカーとリファレンスのウィンドウを位相で定義することができます。(b) 入力信号の単一周期を示すPWAツール。ボックスカーとリファレンスのウィンドウをグレーで表示しています。(c) ボックスカー・ウィンドウを掃引して波形を復元。パルス幅よりもはるかに狭いボックスカー・ウィンドウを使い、測定パルス幅にわたって掃引することで、パルスのエンベロープを再構成することができます。

表2:波形復元のための様々なツールの相対評価
  スコープ/
デジタイザー
周期波形
アナライザ
ボックスカー・
ウィンドウ
掃引

測定SNR

測定時間分解能

測定振幅分解能

測定速度

速い 遅い 速い

トリガのジッタ/ドリフトの影響

受ける 受けない 受けない

ボックスカーアベレージャとロックインアンプの比較

ロックインアンプとボックスカーアベレージャは、周期的な信号の測定方法が異なります。ボックスカーアベレージャは、信号の基本周波数と多くの高調波から情報を取得するのに対し、ロックインアンプは、単一の周波数で選択的に測定を行います。ロックインアンプは、測定信号と基準信号(通常は正弦波)を掛け合わせた後、調整可能なローパスフィルターをかけることで測定します。周波数応答、時間応答、測定速度は、ローパスフィルタの帯域幅と次数に依存します。(ロックイン検出のホワイトペーパーを参照)

特定の実験にどの測定手法が適しているかを判断する際には、以下の点を検討する必要があります。

  • 測定信号の波形形状について:正弦波、矩形波、周期的なパルス列、あるいはもっと複雑な波形なのか?
  • 測定信号のデューティ比について
  • 測定信号のSNRについて:雑音の特性はどうなっているか?
  • 必要な取り込み速度とセトリングタイムについて

純粋な正弦波の測定信号の場合、実験のセットアップが迅速かつ容易に行えるロックイン測定が多く用いられます。同じ測定帯域幅のボックスカー測定では、ボックスカー・ウィンドウの最適化とベースライン・サプレッションにより、SNRが若干良くなります。しかし、最適なボックスカー測定には、ロックイン測定と比較してより多くのパラメータを設定する必要があります。また、高調波を捕捉する必要があり、ボックスカー測定は一般的に高価なものとなります。

方形波やパルス信号の場合は、ボックスカー測定の設定が簡単になります。また測定信号のデューティ比が低いほど、高調波の情報が多くなります。ボックスカーアベレージャでは、ボックスカーのウィンドウ幅を狭くすることで、高次の高調波を相対的に重視し、この情報を捉えることができます。しかし、高次の高調波の情報を取り込むことは、同時にノイズの増加にもつながります。ボックスカーアベレージャーとロックインアンプのどちらの結果が優れているかは、ノイズバックグラウンドの特性によります。

図6(a)は、ホワイトノイズと1/fノイズで構成される実験の典型的なノイズフロアと、基本周波数\(f_{\rm{rep}}\)を基準としたロックインアンプ用の1次ローパスフィルタの周波数特性を示しています。この例では、基本周波数\(f_{\rm{rep}}\)のノイズは1/fノイズが主体となっています。このため、ロックインアンプはかなりの量のノイズを取り込むことになり、この測定ではSNRが悪化してしまいます。図6(b)は、同じバックグラウンドノイズに、\(d=0.05\)のデューティ比と\(N=20\)のアベレージング周期を持つボックスカーアベレージャの周波数応答を示しています。この場合ボックスカーアベレージャは、ノイズの少ない高調波から情報を取り込むことでSNRが大幅に向上します。

Comparison of the spectral response of a lock-in amplifier and a boxcar averager

図6:ロックインアンプとボックスカーアベレージャの周波数応答の比較。(a) 基本周波数を中心に1次のローパス・フィルタの周波数応答を対数でプロットしたもの。ホワイトノイズと1/fノイズからなる典型的なノイズフロアを示しています。(b) デューティサイクル \(d=0.05\)、周期 \(N=20\) のボックスカーアベレージャの周波数応答を、同じノイズフロア条件で対数プロットしたもの。

さらに、時間領域でリファレンス・ウィンドウを定義できることは、対象となる信号に対して位相がずれたノイズ源に起因する系統的な測定エラーを回避する非常に強力な手段となります。

最後にフィルタは、測定速度を決定する重要な機能です。例えば、\(f_{\rm{rep}}\geqq \mathrm{ 10\,MHz}\) の信号を考えてみます。5次のローパスフィルターを用い、フィルターの帯域幅を \(f_{\rm{3dB}}\geqq \mathrm{34\,kHz}\) とした場合、99.9%のセトリングには約26時間かかります(計算方法はロックイン検出のホワイトペーパーを参照)。これに対し、帯域幅34 kHzのボックスカーアベレージャ(\(N=128\) アベレージング周期)では、\(NT_{\rm{rep}}=\mathrm{12.8\,\mu s}\) で100%のセトリングに達します。例えば、ビデオレートの顕微鏡の場合、ボックスカーアベレージャを使った方が、ピクセル間のクロストークを避けることができます。

すなわち、ロックイン測定はセットアップが簡単で、入力帯域幅とサンプリングレートの点で必要要件が少ないという利点があります。一方、ボックスカーアベレージャでは、より高速な回路といくつかのパラメータの最適化が必要ですが、このように複雑になるものの、SNRと測定速度の点で優位となる低デューティ比のパルス信号には、利用する価値があります。最適な測定方法を決定には、ロックインアンプとボックスカーアベレージャを1対1で比較できれば最良です。Zurich InstrumentsのUHFLIロックインアンプとUHF-BOXボックスカー・アベレージャ・オプションの組み合わせでは、両方の手法を同時に一台で実現することが可能です。

参考文献

[1] M. Plancherel and M. Leffler. Contribution à l’étude de la représentation d’une fonction arbitraire par des intégrales définies. Rendiconti del Circolo Matematico di Palermo, 30:289, 1910.
[2] R. J. Blume. Boxcar integrator with long holding times. Review of Scientific Instruments, 32(9):1016, 1961.
[3] Zurich Instruments. Lock-in amplifier with phase-synchronous processing, 2014. Patent US20140218103A1.
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